昔は親が衰えたときは息子や娘が親名義の預金をおろすのが当たり前でした。それが原因で親族間で揉め事がおこることもしばしばありました。あるとき、そういうのはいけない、成年後見制度があるという人がいて、始めてこの制度のことを知りました。身近にそういう問題が起こったとき、そのとき聞きかじったことを思い出して、調べてやってみました。ちょっと面倒なところもありますが、きちんとやってよかったと思っています。
成年後見制度とは
成年後見制度は、高齢や病気などにより判断能力が低下してしまった人を守るための制度です。
たとえば、判断能力が衰えると、お金の計算ができなくなったり、だまされて高額な商品を買わされてしまうようなことがあります。
また、介護保険を利用しようとしても、内容が理解できずどのようなサービスを希望するか意思表示できなくなることもあります。
こうした状態になったとき、家庭裁判所から後見人に指名された人が、本人のために、本人に代わって法律上の判断をできるようにする制度です。
後見人は、本人に代わって法律手続きを行うだけでなく、本人が既に行った契約を取り消すこともできます。
また、判断力などの状況に応じて、「後見」だけでなく、「保佐」や「補助」という制度もあります。
後見人が必要になるとき
認知症などで判断力が低下したとき
認知症などで判断能力が不十分になれば後見人が必要になります。
成年後見人を付けずにいると、判断力が不十分なまま重要な契約や財産などに関する行為をして、いろいろな問題を引き起こすことがあります。
浪費をしたり、理由の乏しい寄付などで財産を減らしてしまうことがあります。
悪徳商法などの被害に遭ってしまうこともあります。
このようなことになる危険がみえてきたら成年後見制度の利用を検討しなければなりません。
預金を管理できなくなったとき
本人が預金をおろす手順を忘れるような状態になったときは、誰かが代わりにやってあげなくてはなりません。また、本人はまだ大丈夫な気になっていても、金融機関が本人の様子をみて預貯金口座を凍結することもあります。
このような場合、たとえ家族であっても、本人以外が預貯金口座からお金をおろしたり、口座を解約することはできません。本人を銀行に連れて行っても、意思確認ができない状態なら同じです。
認知症の人の預貯金口座を管理するには、成年後見人が必要です。
不動産を売却するとき
認知症の人が所有している不動産を他人に賃貸して家賃収入を得ている場合は、成年後見人に不動産を管理してもらう必要があります。
また、不動産を売却したい場合にも、認知症の人がする契約は無効になる可能性が髙いので、成年後見人に代理してもらわなければなりません。
成年後見人が選任されると、本人の代わりに不動産の管理や処分を行う権限があります。ただし、本人の居住用不動産については家庭裁判所の許可が必要です。
施設に入所するとき
認知症の人を介護施設に入所させる場合にも、本人に判断能力がなければ、介護施設に入所するための契約ができないので、成年後見人が必要になります。
親族であるという理由だけでは代理人にはなれません。成年後見人を選任して、成年後見人が本人の代理人として契約を結ぶ必要があります。
相続手続が始まるとき
相続が発生したとき、相続人の中に認知症の人がいれば、成年後見人の選任が必須になることがあります。
たとえば、亡くなった人の預貯金口座を解約するには、相続人全員の関与が必要なため、認知症の人には成年後見人を付けなければなりません。
相続手続きでは、相続人全員で遺産分割協議をしますが。認知症の人がいると遺産分割協議ができません。早めに成年後見人を選任しておかなければ相続手続きに時間がかかってしまいます。
後見人がつくとどうなるか
変わるところ
まず、後見開始の審判があると契約書にハンを押すことができません。ですから、高額な商品の売り買いができなくなります。もし、本人が同意の上で契約書にハンを押しても、後見人等が取り消しの意思表示を行うだけで、その契約は無効になります。
印鑑登録ができなくなります。
医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失います。補助の場合は資格制限はありません。
2019年6月に成年後見制度適正化法が成立し、資格や地位が自動的に失われる「欠格条項」は削除されました。それにより、心身の故障について、それぞれの法律に基づいて個別に審査し、各制度ごとに必要な能力の有無を判断されます。
禁治産等と言っていた時代には戸籍に記載されていましたが、後見、保佐、補助は本人の戸籍には記載されません。後見関係は、法務局に登記され、関係者だけが登記事項証明書を入手することができます。
変わらないところ
スーパーでお肉やお魚を買ったり、お店で洋服や靴を買ったりするような日常生活に必要な範囲の行為は本人が自由にすることができます。
どのような手続きが必要か
成年後見制度の利用を申し込むことを「申し立て」といいます。
申し立ては本人、配偶者、4親等内の親族がすることができます。
親族等がいない場合は、市区町村長が申し立て人になることもあります。
申し立て先は家庭裁判所です。
ほとんどの場合、子供などの親族が申し立てをしています。
本人が実際に住んでいる所を管轄する家庭裁判所に申し立てます。住民票上の住所より実際に住んでいるところが優先されます。
近くの家庭裁判所に行ってください。必要な書類などを教えてくれます。また、家庭裁判所のホームページにも詳しく掲載されています。
書類の準備ができたら管轄する裁判所に電話して申立て日時を予約します。
自分で申立てをするのが不安な場合は、費用がかかりますが、弁護士や司法書士、その他成年後見人制度を取り扱っている専門家に相談してください。
なお、報酬額について事前に確認する必要があります。
申し立てから決定までの期間は、あくまで目安ですが、後見、保佐は2ヶ月から3ヶ月くらいかかります。補助は1ヶ月くらいです。
収入印紙や切手代などが数万円くらい、精神鑑定を行う場合は精神鑑定のための鑑定料が5万~10万くらいかかります。あくまで目安ですから、事前に医師に確かめるほうがよいでしょう。
申し立ての書類の中に医師の診断書があります。家庭裁判所指定の「診断書(成年後見用)」及び「診断書附票」を主治医に作成してもらう必要があります。この場合、主治医が精神科の医師でなくても構いません。
後見開始の審判がされたときや、任意後見契約の公正証書が作成されたときは、家庭裁判所または公証人の嘱託によって、成年後見人の権限などが登記されます。
ここで説明している手続きの流れは、法定後見制度という判断能力が不十分になってしまった後に、周囲の方などが申し立てをする後見制度です。前もって後見を引き受けてもらう契約しておくことを任意後見制度と言います。
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