せっかく遺言書を作成しても、不備があると遺言が無効になってしまうことがあるようです。せっかく残した遺言書が意味のないものにならないように、十分に注意しましょう。
なお、無効になる、と書きましたが、法律的に無効だということであって、不備があっても全ての相続人が遺言書の内容に納得すれば遺言書の内容が実現します。
日付 氏名 自書 押印 がポイントです。
民法第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
なんでこんなに厳しいのか、と思うところもありますが、そうなっているので注意するしかありません。
日付がない遺言
日付を記載していないと無効です。
記載していても、遺言作成の日ではない日付だという証拠が出てくれば無効になります。
日付の一部を省略すると無効になることがあります。月日だけで年の記載がないもの、年月だけで日の記載がないものは無効です。
令和2年吉日も無効です。70歳の誕生日、何年の大晦日の夜、なども避けましょう。
日付のスタンプ等も自筆でないので無効です。
令和2年3月3日、または西暦2020年3月3日というように書きましょう。
遺言者の名前が書かれていない遺言
遺言者の名前がないと無効になります。その人が書いたと筆跡で明らかであってもだめです。
フルネームで書かなければなりません。
ゴム印などは無効です。
自分の手書きでない遺言
自筆証書遺言は、自書でないと無効になります。
自書とは、遺言者が文字を自分で書くことです。
つまり、他人が書けば無効です。
パソコンで作成した遺言書、録音、録画による遺言も同様に無効です。
ただし、財産目録の部分だけはパソコン等による作成が認められています。
病気で手が震えて、ひとりでは文字を書けない人に、他人が手を添えて書いたものはどうでしょうか。
「軽く支える程度の添え手」は良いという判例があるそうですが、筆記に困難を覚える場合は公正証書遺言にするべきでしょう。
公正証書遺言ならば、遺言内容を遺言者が公証人に言葉で伝えればよく、書く必要がないためです。
押印していない遺言
押印がないと無効になります。税務申告書も押印不要になった時代ですが、遺言書はまだ押印が必要です。民法に「印を押さなければならない」と書いてあるからです。
民法第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
実印である必要はなく、認印、拇印でも有効だという意見もありますが、争いの元にならないように実印による押印がよいでしょう。
遺言者の手が不自由であったり、病気の容態によっては、押印をすることが困難なこともあります。誰かが代わって押印すると無効になります。自分でハンコを押せない状態であれば、公正証書遺言にするべきでしょう。
修正方法が間違っている遺言
書き間違いの訂正や追加する場合は法律が定めた方式があり、守らないと無効となります。
民法第968条3項 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
このポイントは以下です。
□ 遺言者自身が自筆で訂正すること
□ 変更の場所を指示して、変更したことを付記すること
□ 付記した部分に署名すること
□ 変更した場所に押印すること
これらを守らずになされた加除訂正は無効になり、加除訂正がなかったものとして扱われます。
こうした訂正方法は素人には手に負えないような気がします。正式な加除訂正の方法に慣れていない人は最初から書き直す方が無難です。
変更の方式に違反しても、記載からみて明らかな誤記の訂正にとどまるのであれば、遺言者の意思は十分に確認できるので、遺言の効力に影響はないとした判例(最高裁昭和56年12月18日判決)がありますが用心に越したことはありません。
内容が正確でない遺言
相続する財産の内容が不明確な遺言書は無効になります。
不動産は登記簿謄本通りに正確に記載しなければなりません。預貯金は金融機関の支店名、預金の種類や口座番号まで記載する必要があります。
この場合、コピーの添付で代用できるので件数が多い場合はその方が無難です。
強要された遺言
被相続人を騙したり脅迫したり騙したりして書かせた遺言書も当然ながら無効となります。
共同で書いた遺言
夫婦などが連名で作成した遺言書は無効です。
遺留分を侵害した部分
相続人には遺留分という最低限これだけは受け取れるという権利があります。遺留分を無視した遺言書は、遺言書自体が無効になるわけではありませんが、権利を侵害された相続人は侵害分を取り戻すことができます。
心配であれば
公正証書遺言にすれば書き間違いや法律上の間違いの心配はありません。公正証書遺言は、本人が公証人の前で遺言内容を述べ、公証人が遺言書を作成します。
法務局の保管制度を利用すれば、法律上の要件を満たしているかどうかのチェックを受けることになります。ただし、内容まではチェックしてくれません。
遺言については、素人判断をしないことが重要です。遺言についての専門家は、司法書士、弁護士です。複雑なケースでは、少々お金がかかっても専門家の助力を得た方がよいでしょう。
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