拙者、七十の年を迎えし折、年賀状をやめ申した。世に言う「年賀状じまい」なる風習もあるようだが、殊更に「これにて終い」と記したものを認めることもせず、ただ静かに筆を擱き、ぷつりと断ち切ったのでござる。
もっとも、秋も深まる頃より、人と顔を合わせる機会があれば、「もう年賀状はやめるつもりゆえ、来年から届かずともご勘弁くだされ」と、さりげなく言い添えてはおった。されど、そうした機会に恵まれなんだ方々には何も申せずじまい。とはいえ、届かねば気づくであろう、一、二年もすれば音も絶えるだろうと、たかをくくっておったのでござる。
ところが、世は拙者の思うようには参らぬ。年賀状を絶って久しい今なお、いまだに賀状を届けてくださる方が幾人かおられる。
拙者のような者は、かつて一通出して返礼がなければ、すぐにやめてしまう不器用者にて候。されど、世にはそれを気にも留めぬ、もっとおおらかなる人々も多くおられるようでござる。
ともあれ、こちらからは何も書かぬまま、それでも賀状を受け取るというのは、重なれば重なるほど、どうにも心苦しきもの。礼を欠くようで、年の初めから胸にわだかまりが残る。
今にして思えば、「これにて年賀状は終いにいたします」と、一筆認めておくべきであったかと、ほんの少し、悔いが胸をよぎることもあり申す。
2024年11月19日ーこのページー2024年11月21日