拙者、御役目を引き払いし折を期し、酒断ちを致した。其の次第は、かつて此の書付に認めしこともござる。酒を断ちて十年のあいだ、誠に一滴も口にせなんだ。
されども、十年を経たる折に思うた。親の遺言にあらず、殊更の願掛けにもあらねば、少しばかり緩めても構うまいと。
今では、誕生日、大晦日、正月の元日、さらには初午の日には、小ぶりの茶碗に日本酒を一杯二杯ほど嗜むことにいたした。初午を加え申すは、稲荷の祠に因むゆえにござる。
斯様に、家中では少しは口にするようになり申したが、酒席の催しには極力出ぬよう心掛け、やむを得ず出でても、一滴たりとも飲まぬことにしておる。
