随分と昔のことになり申すが、コリン・デクスターなる英吉利(イギリス)の読み物作者による『ウッドストック行き最終バス』を読んだことがござった。他の作品にもいくつか目を通した記憶はあるのだが、さて、どれを読んだか、細かきことは思い出せず――。されど、いずれも面白かったという印象は、今なお心に残っておる。
その原作をもとに映像化された『主任警部モース』なる御番組を、あるとき視聴いたし候。書き物を映し絵に仕立てるとなると、多くの場合、物語の端をはしょることになり、はしょったがために生ずる綻びを何とか繕わねばならぬという難儀がついて回る。されば、拙者は常より「原作と映像は、もはや別物」と心得、互いに異なるものとして楽しむのが筋と考えておる。
その前提にて申すに、映像の『主任警部モース』の主人公モース殿は、ひと口に言えば「いい加減」な印象。もちろん、それが「人間味」と呼ばれる所以なのであろうが、拙者の思い描く理想の刑事とは、些(いささ)か異なり申す。とは申せ、英吉利にて最も人気のある探偵と聞けば、やはり最後まで見届けねば真の魅力はわからぬと心得、粛々と観進め申した。
その後、若き日のモースを描いた『刑事モース』なる物語を拝見いたした。こちらのモースは、生真面目にして、正義感あふるる青年刑事にて、拙者としては、いよいよ感情移入しやすき人物であった。両方見終えたことで、ようやくこの一連の物語が持つ深みというものが、腑に落ちたような気が致しまする。
モースの死にて物語は幕を閉じ申したが、その後、彼の忠実なる相棒・ルイス巡査部長を主役に据えた『警部ルイス』なる続編が誕生し、今度はルイス殿とハサウェイ巡査部長が活躍する運びとなり申した。拙者の私見を申せば、モースの物語よりも、むしろこのルイス編の方が心地よく、面白く感じられ申した。
さて、空模様に目をやれば、本日は終日、雲の厚き一日であり、時折ぽつりぽつりと雨が落ちて参った。されど気温はさほど下がらず、朝のうちでも八度、日中は十度に達し、寒さというにはいささか緩き気候でござった。春がじわりと、近うなっておるようでございますな。
2025年3月21日ーこのページー2025年3月23日