この頃、江戸の城下――いまは東京と申すらしきが――にて、土曜・日曜の二日ばかり、鉄道の一部を止め、羽田なる飛行場へ通ずる新たな道筋の工事をなしたとのことにて候。
テレビなる見世物箱には「不便じゃ」「困った」とこぼす民の姿が映されておったが、拙者思うに、あれこれ路線が通じ、地の下には地下鉄、地の上には私鉄とバスまで行き交うこの江戸にて、一日や二日の遠回りを、さも一大事のごとく申すのはいかがなものかと、ふと眉をひそめたのでござる。
さらに聞けば、上中里(かみなかざと)なる駅のあたりは「陸の孤島」などと呼ばれておるというではないか。そのわけは、隣の駅まで歩いて十五分かかるとのこと。それを「不便」と申すのか、―拙者には、むしろ「十五分で駅に至るとは、結構な地」と思えるのでござる。
と、そこまで至ったとき、ふと昔のことを思い出した。実はその「陸の孤島」と揶揄された上中里駅へ、拙者一度だけ、わざわざ足を運んだことがあるのじゃ。
それというのも、内田康夫殿の「浅見光彦」なる御用聞き物語にて、上中里駅の近くに「平塚亭」なる団子屋が登場し、そこへ主人公が立ち寄る場面が描かれておった。なんでも、その店は実在するという話を耳にし、物好きついでに、実際に団子を買いに出向いたのでござる。
実際の平塚亭には、小説のごとく腰を下ろして団子を味わう風情はなかったが、それでも、物語の中の景が現世に存在するということに、ささやかな感動を覚えたものでござった。
さて、本日は晴天にて、朝のうちは肌寒く、火鉢の火が恋しく思われたが、昼には気温十七度まで上がり、春のぬくもりが戻ってまいりました。
2025年4月20日ーこのページー2025年4月22日