数年前のこと、初めて越後高田を訪ねる機会があり申した。その折、かねてより気になっていた「越後の笹飴」を見つけて、迷わず買い求め候。
夏目漱石の『坊っちゃん』に「清が越後の笹飴を笹ぐるみむしゃむしゃ……」という描写がある。それを読んだ当時、拙者はなんとなく柔らかい飴、たとえば会津若松の五郎兵衛飴のようなゼリー状のものを想像していた。むしゃむしゃと食べるくらいだから、そういう類の飴なのだろうと勝手に思い込んでいたのでござる。
ところが、実物の笹飴はまったく違うものでござった。笹の葉に挟んであるのは、思いのほか硬めの水飴で、どう見ても「むしゃむしゃ」などという食べ方ができる代物ではござらぬ。「絶対にかまずに最後まで舐めてお召し上がりください」と注意書きが添えてあるほどで、下手な食べ方をすれば、年寄りは歯が抜けかねない。
漱石は、そんな飴の性質を承知のうえで、夢の中で清が“むしゃむしゃ”とやっている様子を書いたのであろう。現実にはあり得ない食べ方だからこそ、かえって面白みがある場面だということが、この度、「越後の笹飴」の現物を食して初めて合点がいき申した。
それにしても、あの笹飴は美味しうござった。素朴でいて深い甘さがあり、笹の香りがほのかに混じって、なんとも後を引く。機会があれば、ぜひまた買い求めたいと思いおり候。
今日も暑い一日でござった。