釣りと申すもの、ここ幾十年も致しておらぬが、若き日にはよく出かけ申した。主としては舟釣りにござる。当時は釣具屋が催す釣行に加わっておった。真夜中に店先へと集まり、小さきバスに乗せられて港へと向かったものでござる。漁師の家にて一息入れ、夜明け前に舟へ乗り込む。まこと、週末の楽しきひとときにござった。
されど拙者、舟に弱くてな。少し揺れるともう駄目でござった。今日は天気良い、波も平らかであろうと思ってもさにあらず。沖に出て波静かな記憶など、ついぞござらぬ。隣の舟が時折見えなくなるほどの大波に揺られる中、強き者はものともせず釣り糸を垂れ続けるが、拙者はただ座っているだけで精一杯。時にはあきらめて、甲板にひっくり返っておったこともある。それでも魚が掛かり始めれば、必死に糸を引き上げたものじゃ。
難儀は船酔いばかりにあらず。腰痛にも悩まされ申した。舟の上は冷え込み、床にあぐらをかいて糸を上げ下げするゆえ、腰によろしくはなし。家に帰りつく頃には、腰の曲がった老人のようになっていたこともあった。これでは続けられぬと思い、惜しくも釣竿や仕掛けを手放したのでござる。
その後、十余年経ち、ある観光地にて、はずみで観光釣舟に乗ったのでござる。少々心配しておったが、舟には椅子が備わり、釣竿を船べりに固定する仕掛けも整っており、陸近くのせいか揺れも少なく、ゆったりと座して釣りを楽しむことができた。「もし、当時もこのような舟であったなら、拙者も釣りを続けられたものを……」と、思うたものでござる。
昨夜は雷鳴とどろき、ときおり激しい雨になり申した。朝も雨が残っておったが次第に回復、雨のおかげか気温は最高でも27度と、最近にしては低めであった。