最近、耳が遠くなってきたのではないかと、言われることがあります。高齢になって耳が遠くなる、加齢性難聴、または老人性難聴について調べてみました。
加齢性難聴の主な原因
加齢性難聴は、病気というよりは老化現象の一つであり、主に音を感知する内耳(ないじ)の機能が低下することで起こります。
内耳の有毛細胞(ゆうもうさいぼう)の減少・老化
- メカニズム: 音を電気信号に変えて脳に送る役割を担う内耳の有毛細胞が、加齢とともに傷ついたり、数が減少したりすることで、音の感知能力が低下します。特に高い音から聞き取りにくくなるのが特徴です。
- 特徴: 一度失われた有毛細胞は基本的に再生しないため、難聴は進行性で、根本的な治療は難しいとされています。
聴覚神経・聴覚中枢(脳)の機能低下
- メカニズム: 内耳だけでなく、音の情報を脳に伝える聴神経や、音を言葉として認識・処理する脳の聴覚中枢の機能も老化によって低下します。
- 特徴: 単純な音は聞こえても、言葉の聞き分け(特に雑音の中での会話)が難しくなるという特徴があります。
生活習慣の影響
- 血流障害: 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や喫煙は、内耳の有毛細胞に酸素や栄養を運ぶ血流を悪化させ、難聴の進行を早める原因になると考えられています。
- 騒音の負荷: 若い頃から大音量で音楽を聴いたり、騒音の激しい環境に長期間いたことによるダメージが蓄積し、難聴を加速させることがあります。
- ストレス・疲労: 過度なストレスや疲労、睡眠不足なども、難聴の発症や悪化に影響を与えることがあります。
加齢性難聴の対策
加齢性難聴は完全に防ぐのは困難ですが、その進行を遅らせることや、聞こえを補うことは可能です。
進行を遅らせるための予防策
- 大きな音を避ける
- テレビや音楽を大音量で聞かないように心がける。
- 騒音下では耳栓をするなど、耳を保護する。
- 静かな場所で耳を休ませる時間を作る。
- 生活習慣病の管理
- 高血圧や糖尿病などの持病を適切に治療し、血流障害を防ぐ。
- 栄養バランスの取れた食事を心がけ、塩分やコレステロールを控える。
- 適度な運動
- ウォーキングなどの有酸素運動で全身の血流を促進する。
- 禁煙
- 喫煙は血管を収縮させ血流を悪化させるため、禁煙する。
- 規則正しい生活
- 十分な睡眠を取り、ストレスや疲労を溜めないようにする。
聞こえを改善・補うための対策
- 早期に耳鼻咽喉科を受診する
- 聞こえにくいと感じたら、「年のせい」と諦めずに、まず耳鼻咽喉科を受診しましょう。加齢以外の難聴(耳垢の詰まり、中耳炎など)であれば治療で改善することがあります。
- 加齢性難聴の場合でも、聴力検査によって補聴器が必要かどうかを診断してもらえます。
- 補聴器の装用
- 難聴の程度に応じて補聴器を使用し、聞こえを補うことが最も有効な手段です。
- 補聴器は認知症のリスク低減にもつながると期待されています。補聴器は調整と慣れが必要なため、専門家と相談しながら使用しましょう。
- コミュニケーションの工夫(周囲の方へ)
- 話すときは顔を見て、はっきりとした言葉でゆっくり話す。
- 耳元で大声を出したり、早口で話したりすると、かえって聞き取りにくくなることがあるため避ける。
聞こえが気になってきたら、一度耳鼻咽喉科に行くことが肝心。
補聴器が苦手な高齢者もいる
高齢者のなかに「補聴器はダメだ」と言う人がいるのは、いくつかの理由や背景があります。これは補聴器が単に音を大きくする機械ではなく、「聞こえのリハビリ」としての側面や、心理的な側面が大きく関わるためです。
主な理由として以下の点が挙げられます。
音や雑音がうるさい・不快
- 初期の不快感: 難聴が進行すると、脳はそれまで聞こえなかった音(生活音など)をシャットアウトする状態に慣れてしまいます。補聴器をつけると、それらの音が急に入ってくるため、「うるさい」「雑音ばかりで会話が聞き取れない」「自分の声が響く」と感じ、不快感から使用をやめてしまうケースが非常に多いです。
- 調整不足: 補聴器は、個人の聴力に合わせて細かく調整(フィッティング)する必要があります。調整が不十分だと、単に全ての音を大きくするだけになってしまい、雑音ばかりが目立って「ダメなもの」という印象を持ってしまいます。
見た目が気になる・抵抗感
- 「老い」の象徴: 補聴器をつけることで、「自分は耳が遠い」「年を取った」と周囲に知られるのが恥ずかしい、あるいは老いを認めたくないという心理的な抵抗感があります。
- 日本文化の影響: 若々しいことが美徳とされる文化的な背景も、補聴器の装用をためらわせる一因とされています。
操作や管理が面倒
- 手先の不自由さ: ご高齢になると、電池交換や電源のオンオフ、細かい手入れなどの補聴器の操作が、手先の不自由さから面倒に感じられることがあります。
- 慣れの期間の不足: 補聴器はメガネのように買ってすぐに快適になるものではなく、数週間から数ヶ月の慣らし期間が必要です。この期間を乗り越えられず、「効果がない」と諦めてしまうこともあります。
費用と効果への疑問
- 高額な費用: 補聴器は医療機器であり、機種にもよりますが高額になることが多く、「この値段を払ってまで、本当に効果があるのか?」という疑問や、金銭的な負担感を感じる方もいます。
- 「元の聞こえに戻らない」: 補聴器はあくまで「補助」をするものであり、難聴になる前の聞こえに完全に回復させるものではありません。過度な期待を持っていた場合、「思っていたほど聞こえない」と感じ、不満につながることがあります。
補聴器を前向きに捉えるためのポイント
現在では技術が進歩し、上記のような不満を解消するための対策が取られています。
- 専門家による適切なフィッティングが必須
- 認定補聴器技能者のいる専門店や、補聴器相談医のいる耳鼻咽喉科で、時間をかけてご自身の聴力や生活環境に合わせた調整をしてもらうことが最も重要です。
- 慣らし期間の重要性
- 最初からフル稼働するのではなく、静かな場所で短時間から使用を始め、徐々に装着時間と音量を上げていく「聞こえのリハビリ」が必要です。
- 技術の進化
- 充電式で電池交換が不要なものや、目立たない小型のデザイン、雑音を抑える高度なデジタル処理が可能な機種も増えています。
- 周囲のサポート
- ご家族が補聴器の操作や手入れをサポートしたり、コミュニケーションを工夫(ゆっくり話すなど)したりすることで、ご本人の負担が大きく減ります。
補聴器は生活の質(QOL)の向上や、認知症予防にもつながる重要なツールです。もしご家族の方が補聴器を嫌がっている場合は、「ダメ」な理由を理解した上で、適切な専門機関で再度相談してみることをお勧めします。
iPhoneが補聴器代わりになる?
はい、iPhone(特にAirPods ProなどのApple純正イヤホンと組み合わせて)には、補聴器の代わり、または補助として使える機能が複数搭載されており、近年非常に注目を集めています。
ただし、「補聴器の代わりになるか」という点については、軽度から中等度の難聴の方の補助としては有効ですが、専門的な医療機器である補聴器とはいくつかの違いがあるため、注意が必要です。
iPhoneとイヤホンを使った主な聴覚サポート機能
iPhoneとAirPodsなどのイヤホンで使える主な機能は以下の2つです。
ライブリスニング機能
- 機能: iPhoneをマイクのように使い、iPhoneで集音した周囲の音や会話を、Bluetooth接続したAirPodsなどのイヤホンを通してリアルタイムで聞くことができる機能です。
- 用途: 騒がしい場所で相手の声を聞き取りたいときや、テレビの近くにiPhoneを置いて離れた場所で音を聞きたいときなど、リモートマイクのように使うことができます。
- 特徴: 補聴器のように耳に直接装着して常に使うものではなく、特定の場面での補助として非常に有効です。
AirPods Proの「ヒアリング補助プログラム」
- 対象機種: AirPods Pro(第2世代以降)などの特定の機種
- 機能:
- iPhoneの「ヘルスケア」アプリなどで簡単な聴力チェック(ヒアリングチェック)を行うことができます。
- そのチェック結果に基づき、AirPods Proが周囲の音を個人の聴力に合わせて自動で調整・増幅し、聞き取りやすくする機能です。
- この機能は、Appleによって軽度から中等度の難聴が認められる方向けとして開発されています。
補聴器とApple製品の機能の違い
Apple製品のこれらの機能は大変優れていますが、専門の管理医療機器である補聴器とは根本的な違いがあります。
| 項目 | 専門の補聴器(管理医療機器) | iPhone/AirPodsの補助機能 |
| 目的 | 聴力改善を目的とした医療機器 | 聴覚の補助・サポート |
| 対象難聴 | 軽度から重度まで、幅広い難聴に対応 | 軽度から中等度の難聴を対象 |
| 調整(フィッティング) | 認定技能者による細かい周波数調整、試聴、慣らし期間のサポートが必須 | 聴力チェックに基づく自動調整がメイン(一部手動調整も可能) |
| 連続使用時間 | 長時間(18時間〜数日)の使用を想定 | イヤホンのバッテリーに依存(数時間の使用) |
| 費用 | 高額だが、医療費控除の対象になる場合がある | イヤホン・iPhone本体の購入費用のみ |
まとめ
- 一時的な補助や疑似体験には最適:iPhoneとAirPodsの機能は、補聴器を試す前の「疑似体験」として、また、軽度難聴の方が特定のシーンで使う「補助的な集音器」としては非常に役立ちます。
- 日常的な難聴治療には専門の補聴器を:しかし、難聴を改善し、快適に日常生活を送るための継続的なサポートや、高度な雑音処理が必要な場合は、やはり専門の耳鼻咽喉科を受診し、認定補聴器技能者による適切なフィッティングを受けた補聴器を使用することが推奨されます。
もしご自身の聞こえに不安がある場合は、まず耳鼻咽喉科で正確な聴力検査を受けることをおすすめします。その上で、ライフスタイルに合わせてこれらの補助機能を活用するのが良いでしょう。