定年後の生活設計において、「趣味」は大きな柱となります。現役時代には時間がなくて諦めていた活動に心ゆくまで打ち込み、第二の人生を謳歌する。それは、誰もが抱く希望に満ちた老後のイメージです。
しかし、現実は時に残酷です。
張り切って始めた趣味が、身体の衰えという壁にぶつかり、継続を断念せざるを得なくなる。「思っていた老後と、現実の老後が違う」と戸惑い、一時は無気力に陥ってしまう高齢者は少なくありません。
例えば、朝早くから仲間と集い、体力維持と社交の場であったゲートボール。足腰を痛めた途端、その喜びと居場所が一気に失われます。あるいは、静かな時間を与えてくれた読書。目が弱まり、活字がぼやけ始めた時、長年の友を失ったような虚しさに襲われます。健康維持のために始めたジム通いも、体のふらつきや病気でドクターストップがかかれば、継続は不可能となります。
これは、趣味の「喪失」という、高齢者が受け入れなければならない現実です。
では、この変化にどう立ち向かい、どのようにして「持続可能」な喜びを見つけていけば良いのでしょうか。鍵となるのは、趣味の選び方における「可変性」と、一つの活動に固執しない「転換力」です。
趣味の選び方:動から静へ
これから趣味を選ぶなら、身体能力の衰えを視野に入れた段階的な活動を取り入れることが賢明です。
- 「動」の活動(初期の選択): 定年直後は、旅行、登山、スポーツなど、体力を要する活動を存分に楽しむ。これは「貯金」のようなもので、後年の糧となります。
- 「半動半静」の活動(中期への移行): 園芸やウォーキング、あるいはボランティア活動のように、自分のペースで調整できる活動へ移行する準備をします。
- 「静」の活動(持続可能な選択): 囲碁・将棋、絵画、手芸、書道など、主に座って行える、集中力を要する活動を軸に据えます。これらは体力的な制約を受けにくく、長期間継続しやすいものです。
趣味の「転換」と「置き換え」
できなくなった趣味はやむを得ません。大事なのはその趣味の「本質」を分解し、別の手段で「置き換える」発想を持つことが大切です。
重要なのは、「活動そのもの」に固執しないことです。ゲートボールで本当に欲しかったのは、ボールを打つことではなく、「仲間との笑い」や「生きがいとなる予定」であったはずです。読書で求めていたのは、「文字」ではなく、「物語に触れる喜び」や「静かな集中時間」だったはずです。
そうだとすれば、ゲートボールは、より軽い高齢者向けスポーツ、地域の茶話会、可能な範囲のボランティア活動などに置き換えることができます。読書は、オーディオブック、文字を大きくできる電子書籍などに置き換えることができます。
趣味とは、人生を豊かにするための「手段」であり、「目的」ではありません。
心身の変化に合わせて柔軟に形を変え、「今日の自分にできる最高の楽しみ」を選ぶこと。そして、新しい趣味に踏み出す好奇心を失わないことこそが、晩年の人生を彩り、活力を与えてくれる唯一の秘訣ではないでしょうか。
