読書記録 幕末単身赴任 下級武士の食日記 青木直己著 ちくま文庫 2016年9月10日発行
紀州藩の衣紋方、酒井伴四郎の日記をもとに、江戸への道中、勤番侍として江戸での生活、特に食生活について紹介した本です。
江戸時代の下級武士というと生活を切り詰める貧乏生活を想像していたのですが、必ずしもそうでもないようです。贅沢はできないものの楽しくやっていたようです。
素麺は夏によく食しますがこれが七夕の食べ物であったとか、汁粉は冬に限らず年中食べていたとか、当時の食習慣は面白いです。
主人公伴四郎は衣紋方という殿様の服装係なので、武術とは無縁だったと思われますが、時代の流れで長州征伐に出陣して勇ましく戦っていることも興味深いことです。
伴四郎は実に筆まめです。食べたもの買ったものを詳細に記録してくれました。こうした筆まめな人がいるおかげで後世の私達が昔の生活の実態を垣間見ることができます。
さらに幸いだったのはその書き物が紛失離散しなかったことです。これは子孫が偉いのです。多くの家に先祖が書いたものがあったはずですが、いろいろな理由で日の目を見ないで永久に失われたものが多いと思います。わが家でも明治大正期に商売をやっていたころの帳簿類や手紙類が、私が子供の頃までは確かに残っていたのですが、今は何も残っていません。どこへ消えたものか、ときどき思い出してはがっかりするくらい残念なことです。
著者は羊羹で有名な「虎屋」に長く勤務していたとのことです。仕事と趣味を両立させた実に才能ある方のようです。こういう楽しい本を上梓していただいた著者に感謝です。
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