半世紀と少し前のことでござる。拙者が中学校の門を初めてくぐった入学式の日、一つだけ今なお心に残る場面があり申す。
壇上にて、小学校時代の校長殿が祝辞を述べておられた。恐らくは来賓として招かれておったのだろう。話の折、「今日、四月八日はお釈迦様の誕生日にござる」と静かに語りかけられた。
その直後、隣の席の者が「ほんとかな」と呟き、さらにその隣が「うそに決まってる」と断じた。曰く、その校長先生は「ホラが多い」と子供の間で囁かれており、拙者もそのときは、疑いの声の方に耳を傾けてしまった。
時は流れ、社会に出て幾年か経ったある折、ふと知った。「四月八日は釈迦の生誕日、いわゆる『花まつり』の日」と。あの校長の言葉は、まことであったのだと、そこで初めて知り、胸にわずかな痛みが走り申した。
思えば、あの先生は冗談を交えて語ることが多く、子供たちの心を和ませようとしておられたのだろう。されど、子供というものは、案外冗談に疎く、真実を見誤りやすい。あのときの「冤罪」は、拙者の心にも小さな戒めとして残り続けておる。
さて、本日の空模様は午前中こそ穏やかに晴れ渡っておりましたが、午後三つ時を過ぎたあたりより、しとしとと雨が落ち始め、しだいに本降りとなり申した。気温は十三度、春とは申せ、なお冷えを覚える一日にござった。