いまより二十年も前のこと、宮城の登米を通りかかりし折、往時の趣を今に伝える立派なる商家を目にした。そこは醤油を醸す元にて、販売もなしているとの由、車を止めて立ち寄りた。
中へ入りしところ、老主人と覚しき御仁が、「ちと中を見てまいられよ」と誘ってくだされ、ありがたく製造の場を拝見仕りた。一巡り見学を終えし折、その老主人、樽より醤油をくみとり、「飲んでごらんなされ」と勧めてくださった。
私、醤油は生にて口にすれば腹を下すものと心得おり、いささか尻込みしたえど、「出来立ての醤油は決して腹を壊さぬ」との言葉を受け、思い切って口にした。その後、何の障りもなく、なるほどと感じ入ったのであった。旅の折の思いがけなきご親切、心に残るご老人であった。
今日も暑い一日であった。
