自筆証書遺言について詳しく解説します。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、遺言者が、遺言書の全文、日付、氏名をすべて自筆で書き、押印することによって作成する遺言書です。他の遺言書(公正証書遺言、秘密証書遺言)と異なり、証人が不要で、自分一人で手軽に作成できるのが大きな特徴です。
作成上の注意点
自筆証書遺言は、民法で定められた厳格な形式要件を満たしていないと無効になってしまうリスクがあります。以下の点に特に注意して作成してください。
- 全文を自筆で書くこと: 遺言書本文は、すべて遺言者自身が手書きで書く必要があります。パソコンで作成したり、他人に代筆してもらったりした部分は無効となります。
- 日付を正確に書くこと: 遺言書を作成した日付を正確に記載してください。「令和○年○月吉日」といった記載は、特定の日付がわからず無効となる可能性があります。
- 氏名を自筆で書くこと: 遺言者の氏名を自筆で書いてください。
- 押印すること: 氏名の下に押印が必要です。認印でも有効ですが、実印を押す方が望ましいとされています。
- 財産目録の作成方法(法改正による緩和):
- 2019年1月13日以降、財産目録については自筆でなくてもよいことになりました。
- パソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書や預貯金通帳のコピーを添付したりすることが可能です。
- ただし、この場合、財産目録のすべてのページに署名・押印が必要です。
- 訂正方法:
- 修正液や修正テープは使用しないでください。
- 訂正する場合は、訂正箇所を明らかにし、「何字削除し、何字追加した」などと付記した上で署名し、訂正箇所に押印します。
メリットとデメリット
メリット | デメリット | |
自筆証書遺言 | ・手軽に作成でき、費用がかからない ・内容を秘密にできる ・いつでも、どこでも書き直しが可能 | ・方式に不備があると無効になるリスクがある ・紛失、隠匿、改ざんのリスクがある ・相続開始後、家庭裁判所の検認手続きが必要となる(※後述の法務局保管制度を利用しない場合) |
公正証書遺言 | ・方式不備で無効になるリスクが低い ・公証役場で保管されるため、紛失・改ざんのリスクがない ・検認手続きが不要 ・専門家が作成するため、法的トラブルを回避しやすい | ・作成に費用と手間がかかる ・2人以上の証人が必要 ・内容が秘密にできない |
法務局への保管制度(自筆証書遺言書保管制度)
2020年7月10日から、自筆証書遺言を法務局が保管する制度が始まりました。この制度を利用することで、自筆証書遺言のデメリットの多くを解消できます。
- 紛失・改ざんの防止: 遺言書の原本と画像データが法務局で保管されるため、紛失や盗難、偽造、改ざんのリスクがなくなります。
- 検認手続きが不要: 法務局に保管された遺言書は、家庭裁判所の検認手続きが不要になります。これにより、相続手続きをスムーズに進められます。
- 方式不備による無効リスクの軽減: 法務局職員が遺言書の形式要件(自筆、日付、署名、押印など)を確認してくれます。これにより、方式不備で無効となる可能性が低くなります。ただし、内容の有効性を保証するものではありません。
- 相続人への通知: 遺言者が亡くなった後、相続人などが遺言書の閲覧や証明書の交付を請求した場合、他の相続人全員に遺言書が保管されている旨が通知されます。
注意点:
- 保管申請は遺言者本人が法務局に出頭して行う必要があります。
- 保管手数料がかかります。
その他知っておくべきこと
- 遺言書の発見: 自宅で保管する場合、遺言書の存在を家族に知らせておかないと、死後に発見されないリスクがあります。
- 遺言執行者: 遺言の内容を確実に実行するため、遺言書の中で「遺言執行者」を指定しておくことが一般的です。
- 遺留分: 遺言書で特定の相続人に全財産を遺贈するといった内容にした場合でも、他の相続人には「遺留分」という最低限の遺産取得分が認められています。遺留分を侵害する内容の遺言書は、将来的にトラブルの原因となることがあります。
一般的な遺言書のサンプル
遺言書
遺言者〇〇〇〇は次の通り遺言する。
1.妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)には以下の不動産を相続させる。
(1)土地
所在
地番
地目
地積 〇平方メートル
(2)建物
所在
家屋番号
種類
構造
床面積1階 〇平方メートル
2階 〇平方メートル
2.長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)には以下の預金を相続させる。
〇〇銀行〇〇支店の遺言者名義の普通預金
口座番号〇〇〇〇〇〇
3.長女〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)には以下の預金を相続させる。
〇〇銀行〇〇支店の遺言者名義の普通預金
口座番号〇〇〇〇〇〇
4.その他遺言者に属する一切の財産は、妻〇〇〇〇に相続させる。
5.遺言執行者として次の者を指名する。
住所
氏名
6.付言事項
私がもしものときは遺言執行者に指名した〇〇さんに連絡をとってください。委細は説明してあります。子供たちは協力をしてお母さんが困らないように助けてあげてください。
令和〇年〇月〇日
東京都〇〇区〇町〇丁目〇番〇号
遺言者 〇〇〇〇印
遺言については、素人判断をしないことが重要です。遺言についての専門家は、司法書士、弁護士です。複雑なケースでは、少々お金がかかっても専門家の助力を得た方がよいでしょう。