拙者、いつもの如く椅子に腰を下ろし、ついと背凭れにもたれかかったところ、いきなり「がくん」と音を立てて、後ろへと崩れ申した。驚きつつ見てみれば、背凭れを支えておった四つの留め金――ボルトという金具のうち、三本までが折れ切れており申した。すべてが外れておれば、きっと大きく後ろへ転げ落ちていたであろう。されど、一本だけ残っていたゆえ、十五寸(十五センチ)ほど落ちたところで止まり、事なきを得た次第。
いやはや、危のうござった。
しかしながら、物というものは、いつか必ず壊れるものにて候。幸い、身体に怪我一つなきは、何よりのことでござる。これまで長きにわたり仕えてくれたその椅子に、心よりの礼を述べ、合掌して、粗大ごみにて見送ってやり申した。
その代わりとして、物置の奥より、折りたたみの簡素なる椅子を引き出して当座をしのぎつつ、新たなる椅子を求めることにいたし候。
まずは近くの道具屋――今で申すところの「ホームセンター」なる場所へ出向き、三種の椅子を見てまいった。然れど、いずれも座り心地に納得ゆかず、いったん家に戻り、家中にて「アマゾン」という名の商い所の書付(サイト)を念入りに見申した。加えて、「ニトリ」「無印良品」といった商人の帳面も眺めてみ申した。
その中に、「無印良品」の「ワーキングアームチェア背メッシュ(二〇二三年式)」という品が、心にとまり申した。見た目は質素、値は八千九百九十文(八九九〇円)也。書付だけでは良し悪しの判断はつきかね申したが、無印なる商人は信頼おけると見て、決断いたし候。
箱を解き、説明書なる書付を見たところ、どうやら組み立ては容易と見えた。実際、難所もなく、手早く組み上げ申した。組み立て終えてから、念のため「ユーチューブ」なる動く絵巻にて手順を確認し、特に問題なきことを知り安堵いたし候。
座り心地、以前のものより遥かによろしきにござる。座面は広く、腕置き(アームレスト)も高低自在にて、幅もたっぷりとあり、肘を預けやすく、まことに快適。座面はやや硬めなれど、前より用いておる低反発なる座布団を敷いておれば、何の苦もなし。背の当たりにあてる柔らかき物も所持してはおるが、せっかくの風通しよき網(メッシュ)ゆえ、そのまま使うことにいたし候。
そして、昨日組み立ててから二日目には、留め金を増し締めいたし候。これは拙者、昔よりの習わしにて、念のための処置にござる。
馬(車)を手放して久しく、あちこち見て回ることが難しくなり、ますます書付での取り寄せに頼るようになっておる。評判も読み申すが、拙者が愛用しておる品が酷評されておることもあり、さほど鵜呑みにはせぬようにいたしておる。人の感想というもの、なかなか当てになるようで、ならぬものでござるな。
2024年10月25日ーこのページー2024年10月27日