このほど、水木しげる先生のご著作『古代出雲』を拝読いたし候。角川文庫より、平成二十七年六月二十五日に初版発行と記されておる。
水木先生は、山陰のご出身と聞き及ぶが、なるほど出雲の神話にはひとしおの思い入れがあらせられたのであろう。古事記を根に据えつつも、先生独自の解釈をふんだんに織り交ぜたる「出雲国の盛衰記」とも申すべき一書にて候。
中でも印象深きは、「国譲り」の件。天孫に国を譲るという重大なる事変にござるが、水木先生は、これが穏やかな話し合いでなされたとはお考えにならず。むしろ、力によりて無理強いされたと見なし、「無念」との言葉を何度も用いておられる。なるほど、神の世界といえど、人の世とさほど変わらぬものかもしれぬと思わせられ申した。
巻末を見れば、参考文献の数、なんと六十五冊に及び、加えて現地調査まで自ら足を運びなされておる。まさしく、調べ尽くして書かれた労作にござる。
それにひきかえ、我が如きは、ある一事について一冊読んだのみで「分かったつもり」になる始末。いやはや、誠に面目次第もなきことでござる。
また、水木先生の現地取材には、あの京極夏彦先生も随行なされた由。しかるに、その道中、水木先生は何のためらいもなく「屁が出るわけですが、よろしく」と申され、堂々と放屁なされたと。なんとも豪胆、いや、天真爛漫と言うべきか――これは「ゲゲゲの女房」にも、見合いの席で同じような話が出ておったと記憶しておる。
世に名をなす方々は、やはり尋常ならざる面を多々持ち合わせておるもの。水木先生など、まさにその筆頭と申せましょう。常人の枠を超えた、恐れを知らぬ大人――まさしく「大先生」と呼ぶにふさわしき御方にて候。
2024年11月1日ーこのページー2024年11月3日