私が幼い頃――町にベーカリーなる店が開店した。売り物は食パンだけだが、その場で甘きジャムやピーナッツバターなどを塗って売るという趣向の店であった。
母が町に出た折には、時折買い求めてくれたものである。ある日、私が母に連れられて町へ出た折、件のベーカリーに立ち寄ったのである。なんと、店の前には、長い長い行列ができており、私、思わず目を見張った。いわゆる「行列」というものを、まじまじと目にしたのは、これが初めてであったかと思う。
その後、博覧会のパビリオンなる建物にての行列、ディズニーなる夢の国での行列など、幾度も長い行列を経験したが、それは、やむを得ぬ事情あってのこと。基本的には、並ぶことを好まぬ性分である。
殊に食べ物に関わることにおいては、なおさらにて、いかなる珍味であろうと列に並んでまで口に入れたいという欲は湧かぬ。列が短くても混雑したる店には足を踏み入れとうない。故に旅の途中にて昼どきと相成れば、誰かと連れ立っておれば別ながら、一人の折には、コンビニにてパンや握り飯などを買い求め、その辺りのベンチに腰を下ろして食べるのが習いとなっているのである。
今日もまた、空晴れ渡り、陽炎がゆらめくような暑さであった。聞けば、西方では連日のごとく大雨とのこと。誠に、世は思うようにいかぬものである。
