新しい年を迎え、門松やしめ飾りで賑わったお正月気分が落ち着く頃、「鏡開き」の行事がやってきます。一般的に1月11日(地域によっては異なります)に行われるこの伝統行事は、単に固くなったお餅を食べる日というだけではありません。そこには、日本人の「縁起」を重んじる心と、先人たちから受け継がれてきた深い意味が込められています。
鏡開きは、お正月に年神様(としがみさま)をお迎えし、お供えしていた鏡餅を下げていただく儀式です。年神様は、その年の豊作や幸福をもたらす神様とされ、鏡餅はその依り代、つまり神様の宿る場所と考えられてきました。
神様の力が宿った鏡餅をいただくことは、「共食」を通じてその力を身体に取り込み、一年の無病息災を願う行為に他なりません。つまり、鏡餅は単なる食べ物ではなく、神様との絆を深める「お下がり」なのです。
わが家では、お供えの形をしたプラスチック製で、中に切り餅が入っているものをスーパーで求めてきます。ですから、乾燥して固くなり、カビまではえた餅を割ること久しくしていません。
本来は、木槌などで叩いて「割る」のが古くからの習わしと言われていますが、木槌で少し叩いたくらいではなかなか割れるものではありません。なので、以前のわが家ではナタの背で叩き割っていました。
下げてきた鏡餅は、お汁粉にしていただきます。乾燥してヒビが入ったお餅は、年神様が力を抜かれた証だということですが、固くてあまり美味しいものではありませんでした。今は、パックの切り餅ですから、歯を痛める心配もなく安心していただけます。
わが家では、お正月の飾り付けや伝統的な行事がどんどん簡略化されてしまいました。鏡開きもだいぶ姿が変わりました。でも、神様にお供えしてそのお下がりを皆でいただくという姿だけは今も引き継いでいます。
朝晩めっきり冷え込むようになって、まもなく冬がくるかと思ったら、不意にお汁粉が食べたくなり、鏡開きを連想してしまいました。