私が覚えのうちにはないが、かつて我が家にては、副業にて蚕を飼うていたことがある由。その昔、親類の年寄りが、お主の家に逗留して、いざ床に就こうとすると、蚕どもが桑の葉を食はむ音が耳について、なかなか寝付けなかったと話してくれたものだ。
聞けば、その折の二階はまるまる蚕部屋と相成っておったそうな。今はその頃の家屋も既に無く、養蚕にまつわる名残とては、繭の玉が幾つか残されているばかりになった。
かつて私の祖母は、「今どきの者には、あの蚕もいささか気味悪く思うやもしれぬが、金になるゆえ、あれは可愛いものだった」と申しておった。
さて、本日は曇天なれども、気温は三十二度に達し、なかなかの暑さであった。
