昔の話を一つ仕る。拙者が中学生の折の修学旅行の思い出にて候。なにぶん昔のことゆえ、細かき事は忘れてしまったが、一つだけ、鮮やかに覚えておる事がある。――それは「信号機」のことでござる。
修学旅行にて都会へ出れば、そこには必ずや信号機なるものが立っておる。ゆえに事前に心得ておかねばならぬ――との趣旨であったか、警察官殿がわざわざ学校まで練習用の信号機を持参くださった。
コンセントに差し込み、赤・黄・青の灯を警察官殿がスイッチをを押して点滅させる仕掛けのようであった。体育館に交差点を模した場を設け、我ら生徒が青になれば進め、赤は止まれと指導を受け、実際に歩かされたのである。
されど当時の生徒たち、どうにも真剣味が湧かず、「馬鹿馬鹿しきことをやらされておるものよ」と心中にて苦笑しておったのじゃ。
たしかに、拙者らが通う学区には一つとして信号機は無かったゆえ、そうした企画がなされたのであろう。されど町全体に皆無というわけではなく、中学生ともなれば学区の外へ足を延ばすも常のこと。ゆえに「信号機など見たこともない」という者は一人としておらなんだと思う。そのうえ当時すでにテレビもあり、白黒とはいえ世に広まっておったゆえ、なおさら不思議な取り計らいであった。――とはいえ、今となっては懐かしき思い出にて候。
本日は一日晴天。暑気、なかなか衰えず候。
2025年8月27日ーこのページー2025年8月29日