トラブル発生!会社を辞めさせてくれない
後輩(若い会社員): 先輩、ちょっと相談があるんです。会社を辞めたいって伝えたのに、なかなか退職の手続きを進めてもらえなくて困ってるんです。このままだと体調を崩しそうで…。
先輩(大学時代の先輩): そうか、それは大変だな。でも、無理して働き続けるのは良くないし、無断欠勤でバックレるのだけは絶対にやめとけよ。法的に不利になる可能性があるからな。
後輩: はい、それは避けようと思ってます。でも、引き止められた時にどうしたらいいか迷ってしまって。
先輩: 引き止められるのは、会社が君を評価してくれてる証拠でもあるから、悪いことばかりじゃない。でも、それが口先だけの場合も多いんだ。上司の本音は、「君が辞めると自分が困る」ってことだからな。仕事が滞ったり、自分の指導能力を疑われたりするのを避けたいって気持ちが大きいんだよ。
後輩: やっぱりそうですよね…。僕も辞めたい理由があるのに、押し切られて残っても後悔しそうで。
先輩: 全くだ。上司は自分が困るから必死に引き止めてくるだろうけど、中には度が過ぎた引き止め方もあるから注意が必要だ。
どうすればいいの?
こんな引き止めには要注意!
後輩: 「後任が決まるまで頼むよ」って言われたんですけど、これって応じる必要ありますか?
先輩: 就業規則に書かれている退職届の提出期限を守っていれば、基本的には応じる必要はない。 民法上は、期間の定めのない雇用契約の場合、退職の意思表示をしてから2週間で退職できることになっているからな。就業規則で1ヶ月とか2ヶ月って書いてあっても、民法の原則の方が強い場合が多いんだ。ただし、トラブルを避けるために、できれば就業規則の期間に合わせて退職できたほうが良い。
後輩: わかりました。あとは、「改善を約束するから辞めないで」っていうのもありました。
先輩: そういう言葉は、鵜呑みにしない方がいい。本当に簡単に改善できるなら、君が退職を決意するまでにはなってないはずだからな。具体的な改善策を聞いて、それが信用できるかどうかを見極めることだ。部署異動とか仕事量の軽減とか、具体的な提案があれば検討してみてもいいかもしれないけど、基本的には慎重にな。
後輩: 「今辞めるなんて無責任じゃないか。そういうことではどこへ行っても同じだ」って言われた時は、正直カチンときました。
先輩: それは責任転嫁だし、辞めようとする君を悪者扱いする脅し文句だ。気にする必要は全くない。どこへ行っても同じなんてことはないし、そんなことを言う上司は自分のことしか考えてないからな。屈して残っても、いいことなんてないぞ。
後輩: あと、「会社にどれだけ迷惑をかけると思ってるんだ。賠償金もんだよ」って言われた時は、さすがに怖くなりました…。
先輩: それは完全に悪質な脅しだ。 会社が従業員の退職に対して賠償金を請求できるケースは、よほど特殊な場合を除いてまずないからな。もし言われたら、その場で録音するなり、後からでもいいからメモに残しておくんだ。
上司が応じてくれなくても大丈夫!退職に向けてやるべきこと
後輩: もし上司が退職を了解してくれなくても、どうすればいいんですか?
先輩: 上司が了解してくれない場合は、その上司のさらに上司、または人事権のある人事部長などに直接話をするのがいい。 それでも引き止められるようなら、退職届を提出するんだ。
後輩: 退職届を出せば、それで終わりですか?
先輩: いや、そこからが大事だ。さっきも言ったけど、期間の定めのない雇用契約の場合、法律的には退職届を出して2週間が経過すれば退職したことになる。 だから、退職届を出した後は、最低でも2週間は出社すること。可能であれば、就業規則に記載されている期間に合わせて1ヶ月程度は引き継ぎのために出社する方が、無用なトラブルを避けられる。
後輩: 引き継ぎ中に有給休暇が残っていたら使ってもいいですか?
先輩: もちろんだ!有給休暇は従業員の権利だから、堂々と使っていい。 会社は引き継ぎを理由に有給休暇を断ることはできないし、退職日が近い従業員には時季変更権(会社が有給の取得時期を変更できる権利)も使えないんだ。もし有給が残ってなくて、どうしても出社したくない場合は、体調不良などを理由にきちんと欠勤の連絡をしておくこと。 無断欠勤にならないように、必ず連絡を入れるんだぞ。
後輩: ちなみに、僕、今は正社員ですけど、もしアルバイトとか有期契約だったらどうなりますか?
先輩: 有期契約の場合は注意が必要だ。原則として、契約期間中は「やむを得ない事情」がない限り、途中で辞めることはできない。 ただ、学生の場合は、学業に支障が出るようなら「やむを得ない事情」と認められることが多いから、あまり心配しなくていい。
2週間経っても手続きが進まない場合
後輩: もし、2週間経っても会社が退職の手続きをしてくれなかったらどうすればいいんでしょう?
先輩: そういうケースもあるな。特に重要なのは、雇用保険の手続きと社会保険の手続きだ。
後輩: 雇用保険の手続きって、会社がやってくれるんですよね?
先輩: そうだ。でも、もし会社が離職票を出してくれない場合は、離職票なしで直接ハローワークに行きなさい。ハローワークから会社に働きかけてくれるはずだ。それでもダメなら、「被保険者でなくなったことの確認の請求(雇用保険法第8条)」をハローワークの窓口で明確に伝えるんだ。これによって、ハローワークが正式に動き、離職票の交付につながる。
後輩: 社会保険の手続きも心配です。国民健康保険に加入できないとか、困りますよね。
先輩: 会社が社会保険の手続きをしてくれないと、確かに困る。そういう場合は、市区町村の窓口では解決が難しいことが多いから、次のステップに進む必要がある。
最終手段も視野に入れよう
後輩: 次のステップって何ですか?
先輩: いくつか方法がある。まず、労働基準監督署に申告することだ。有給休暇を使わせないとか、退職金の手続きが遅れているとか、強制的に働かせているといった労働基準法違反があれば、相談に乗ってくれる。
後輩: 法律違反じゃない場合でも相談できるところはありますか?
先輩: あるぞ。都道府県労働局長の指導や、紛争調整委員会によるあっせんといった手続きを利用できる。明確な労働基準法違反じゃなくても、不当な引き止めで不利益を被っている場合は、「個別労働紛争」として扱われるんだ。労働基準監督署や労働局に設置されている総合労働相談の窓口で、「個別労働紛争の件で」と伝えればいい。
後輩: 最悪の場合、訴訟までいくこともあるんですか?
先輩: 最終手段として、弁護士に相談し、訴訟を起こすことも考えられる。 退職したいのに退職させてくれないのは不法行為だから、それによって生じた金銭的な損失や精神的苦痛に対して損害賠償を請求できる。ほとんどの場合、会社が退職を認めないのは違法行為だから、勝てる可能性は高い。 訴訟までいかなくても、弁護士からの内容証明郵便で解決に向かうことも多いんだ。
後輩: なるほど…。弁護士さんに相談するなら、何か準備しておいた方がいいことはありますか?
先輩: 証拠が何よりも重要だ。 いつ退職を申し出て、どんな風に言われたか、これまでの経緯を克明に記録しておきなさい。箇条書きのような簡単なメモじゃなくて、日記みたいに「誰が何を言ったか、それに対してどう答えたか」を具体的に記録するんだ。方言や大きな声で言われたことなんかも描写しておくといい。ワープロの記録より手書きの記録の方がより信頼性が高いとされているし、録音があればさらに良い。
後輩: すごく勉強になりました!ありがとうございます、先輩!これでどうすればいいか分かりました。
先輩: 会社を辞めるって大きな決断だから、不安なことも多いだろう。でも、君の権利はしっかり守られているんだから、諦めずに対応していくことが大切だぞ。何かあったらまた連絡してくれ。
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