出向してほしいと言われたら

労働問題

出向とは

出向というのは、現在の会社での従業員という身分を維持したまま、別の会社に行って働くことを命じられる人事異動です。

今の会社を退職して別の会社に行くのは出向ではありません。転籍と言います。

従わなければいけないか

出向は、会社の社員としての身分は残るものの、勤務場所が変わり、仕事の内容が変わり、勤務時間等の労働条件も違うかもしれないので不安になるものです。

出向しろと言われたらどうにもならないものでしょうか。

以前は、就業規則に出向に関する条文があれば、無条件に従わなければならないという考えが主流でした。

今は、労働契約法の定めもあり、就業規則だけを根拠に出向を強制することはできません。出向命令が権利を濫用したものと認められる場合には無効となります。

労働契約法に次の規定があります。

労働契約法第14条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

出向命令が権利濫用であるかどうかは、出向を命ずる必要性の有無、対象者の選定が適切かどうか等の事情が考慮されると定められています。

これを具体的に言うと、出向命令が有効であるには次の条件を満たしている必要があるとされています。

出向命令が妥当である条件

就業規則等に定めがあるか

就業規則に出向しなけならない旨の定めがある、または、採用時に同意がある場合には使用者には配転命令権が認められます。

就業規則等に根拠があっても、個別に職種や勤務地を限定する約束があれば配転命令は無効になります。

就業規則に出向についての定めがなければ、本人の同意がなければ出向させることができません。

出向の必要性があるか

労働契約法にあるように「必要性」の無い出向命令は無効です。

必要性には、会社の業績が悪いので余剰人員を子会社に出さなければならない、関連会社の技術力が不足しているので一定の期間応援が必要、などがあります。この場合、会社が説明する必要性は本当なのかということがよく問題になります。

人選の基準は妥当か

さらに業務上の必要性が認められたとしても、「対象労働者の選定に係る事情」とあるので、出向者の人選におかしなところがあれば出向命令は無効になる可能性があります。

例えば、「あなたの技術力を生かして応援に行ってほしい」と出向の理由を述べたとしても、実はその人を今の職場から追い出したい、できれば解雇したいという隠れた目的があれば、当然に不当な出向命令ということになります。

その他の事情とは

労働契約法には「その他の事情に照らして」とあります。これについては、出向することで生じる不利益をカバーする仕組みのことだとされています。

出向は、出向元の会社との労働関係は基本的に維持されますが、勤務先の変更に伴って変更になる労働条件もあると思われます。また、外部に出ることによるキャリア面の不利益もあるかもしれません。

また、腰痛持ちで重い物を持てない人を重量物取り扱いの現場に出向させることは、特別に重量物の取り扱いをさせないという約束でもない限り、健康面での不利益をカバーできないと思われます。

このような、出向することで生じる不利益がどのようにカバーされるかが明らかになっていない場合は、会社の権利濫用(勝手すぎると判断されること)と認めれられる可能性があります。

出向したくないときの対応策

出向を打診された場合、特に問題がないと考えるのであれば受け入れればよいのですが、出向したくない理由があるときは、次のようになります。

まず、その出向命令にはどうしても従わなければならないか、再考の余地はないのか、上司に確認します。

次に、出向に関する社内規程を確認してみましょう。規程を読んでも分からないところがあったら、納得できるまで聞きましょう。

特に賃金や労働時間などの労働条件を確認する必要があります。現在よりも労働条件が低下することになっていたら、どのような代償措置が講じられるか聞きましょう。

具体的な場面では、判断が難しいことがでてきます。例えば、労働契約法にある「出向の必要性」の点においても、会社が必要があると判断しても、そうは思わないという判断も成り立ちます。この状態では水掛け論になります。

会社の説明に納得できないときは、感情的に反論するのではなく、第三者の意見を聞くことも必要です。冷静に、社内の相談窓口や労働組合などに相談し、必要に応じて、弁護士等の外部の専門家に相談しましょう。


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